限界オタク日記

結構色々なんでも書きます

紬と過ごした夏休み

 さて、鴎のルートも終わり、残りは紬としろはのみとなったが鴎のブログにも書いた通り、しろはは最後と決めていたので必然的に私は紬のルートに進むことになる。

 蒼と鴎のルートをクリアし、ある程度緩みやすい涙腺にも耐性ができてきたので、ある程度は涙をこらえてプレイできるだろう。

 鴎との思い出に浸るクールタイムも終わり私はリスタートのボタンを押した。

 

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 「紬・ヴェンダース」彼女との初めての出会いは灯りを失った、光を失くした灯台でだった。初対面での印象は「少し不思議な子」それが私が初めて紬という少女に感じたモノだった。紬は「やりたいこと」と「自分を探している」のだという。この時はどういうことなのかまるで分からなった。きっとこれの答えが今回の物語のカギとなっていくのだろう。

 この日はお互いの名前だけを伝えて帰った。

 

 次の日、また紬に会うため私は灯台へと足を運んだ。二度目のご対面は名前を忘れかけられていて、彼女のお気に入りの歌に羽依里の名前を乗せて歌うことで思い出してもらえた。彼女の歌を聴くのはこれで二度目だ。

 紬はゴミ拾いをしていた。もしかしたらこれがやりたいことなのかもしれない。そういって海岸に流れ着くゴミや漂流物を拾い集めていた。

 「これがやりたいことなの?」私はそう聞いた。「いえ、どうやら違うみたいです」「かなりつまらないです」紬はそう返した。

 よく分からなかったので、とりあえず褒めて応援しておいた。している理由が分からなくともゴミ拾いをしているという行為は褒められるべきものであるからだ。

 

 紬はこちらが応援するたびにピースサインをこちらに向ける、そのせいで袋が手からずり落ち、ごみ袋の中身がいくつか散らばる。そんな光景にちょっとむくれている。

 思わず笑ってしまった、そりゃゴミ袋持ってる手でピースサインなんてしたらそうなるに決まってるだろうと

 

 次の日も紬に会いに行く、紬はいつも通り灯台にいた。今日も鼻歌が聴こえる。何度か来ていたからか名前を覚えてくれていた。今日も「やりたいこと」と「じぶん」を探すのだという。羽依里はその紬の探し物を手伝うことにした。どうせ暇だったしやることもないし、そうして私は明日も紬に会いに行くことにした。

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 その帰り道びっくらおっぱいに出会った。見た目は清楚、中身はポン、その名はおっぱいさん。よく分からないうちに話しかけられ、話が進み、当たり障りのない回答をしたら何故か気に入られた。羽依里に飛んできた質問とその回答を覚えているが、確かに満点と言っていい回答だった。「おっぱいみんな違ってみんないい」

 この人は私がクリア済みの他ルートでちょろっと顔を出していたのだが、こんなタイプのキャラクターだとは思わなかった。というかこれは女の子がしてくる質問ではないように思う…。紬に続いて不思議な子が一人増えてしまったようだ。私はこのおっぱいさんが今後どのようにストーリーに絡んでくるか楽しみにしながらストーリーを進めた。



 もう何度目かの夏休みの朝を迎えて、今日も紬に会うため灯台へと足を運んだが、今日はどうやら先客がいたようだ。ちょっと薄めの紫色の髪を揺らしデカ乳をぶら下げているその後ろ姿は、まごう事なく昨日出会ったおっぱいさんだった。

 彼女は紬と一番仲の良い友達らしく、名を静久というらしい。羽依里も自分の名前を伝えるが「パイリ」くんと若干シズクの趣味が入ったようなあだ名で呼ばれることとなった。もはやおっぱいの化身か妖精か何かである。

 

 そうこうしていると今日も紬のやりたいことが見つかったらしい。なんでもパリングルスの容器を使ってベランダを作るのだとか、面白い発想とは思ったが実際に作って乗ることを考えるといささか危ないように思う。それとなく危険性を伝える羽依里、それに対して紬はムテキなので大丈夫と返した。

 まあムテキなら大丈夫だろう。私はここらへんで変な疑問や心配をすることはやめた。せっかくの長い夏休みなんだし、何も考えずやりたいことをやろうじゃないか、パリングルスの容器でベランダ作成、うん楽しそうだ。

 そうと決まれば行動は早い、漂流物からパリングルスの容器を探し、蒼のいる駄菓子屋にも足を運んだ。事情を話すと蒼はもちろん良一や天善も手伝ってくれることになり、空き容器が見つかれば集めて持ってきてくれるようになった。やはり持つべきものは友達だ。私には工作を手伝ってくれる友達はいなかったけども

 

 しかしそうなると、パリングルスの容器が集まるまでやることがなくなってしまった。また漂流物から探し出してもいいが、そう都合よく流れてきてくれるとは限らないし、流れてきても10にも満たないだろう。

 というわけで次のやりたいこと探しに向かう。今度は紬がいつも歌っている鼻歌の歌詞を探すことに決定した。

 

 探し方は鼻歌を人に聞いてもらって、知っているか聞きだすという方法だ。

 しかし、鼻歌を歌っている本人である紬が知らない歌詞を、他の人が知っている可能性は低いだろう。まず一発目に羽依里が鏡子さんに聞いてみたが分からずじまいだった。蒼とかにも聞いてみたのだが分からずじまいだ。

 そんな中駄菓子屋に彼女が現れた。

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 ぐええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!!!!!!

 

 思い出がまだ心の表層に残っていたのでダメージがでかかった。APEXでいうならクレーバー胴体ヒット、ガンダムで言うならデスコン決められたような気分になった。

 おのれサマポケ、何気ないシーンで殺しに来やがる。

 

 しかし、いつまでも過去の思い出に浸っていては先に進めないので重い体を引きずって進む。紬の鼻歌を聞いてもらったが、どうやら鴎も知らないようだ。とりあえずで聞いて回った友人たちは全滅、まあ予想通りっちゃ予想通りだ。この歌詞もなにか重要になってくるそんな気がした。

 

 パリングルスベランダは容器が集まるまで待ちが決まっていて、歌に関しても聞けるところは聞いてしまったため今のところできることはない。

 そうしてまたいつも通りのやりたいこと探しに戻るのだ。

 毎日灯台に訪れているうちにそれが日課になって、紬から「今日も来てくれたんですね」なんて言われたことが昔のように感じる。羽依里が毎日灯台にきているようにシズクも毎日来ていた。

 そしていつからか、三人でいることが、三人で遊ぶことが当たり前になっていった。波長があったのかは分からないが親友と呼べるような関係になっていったのではないのだろうか、少なくともこの夏では彼ら三人は最高の友人同士だったのだろう。

 

 このような関係を見ると、小学校や中学校高校でも、休みの日や放課後いつも一緒になって遊んでいた友人がいたことを思い出す。もちろん毎日一緒だったわけではないが

それでも私の生活の割合を大きく占めていた存在だった。大学進学によってもう連絡をとることもなくなっていたが、久しぶりに連絡してみようという気になった。また一緒に映画を見に行ったり、アニ〇イトとかに行ってみるのもいいかもしれない。

 

 気を取り直してストーリーを進める。夏休みの何気ない日々その一ページを捲っていく、紬がいれば羽依里とシズクがいた。シズクがいれば紬と羽依里がいた。羽依里がいれば紬とシズクがいた。なにをするにも三人一緒だった。

 今日も灯台に来た、どうやら本日の予定は海に行くことらしい。

 しかし羽依里は他のルートでも言われていたように、水辺に関するトラウマを抱えている。足すら入れることのできない羽依里に紬はこう言った「足だけでも気持ちいいですよ」と、羽依里は苦笑いして情けない話を始めた。期待を裏切ってしまったこと、泳ぐのが辛くなってしまったこと、どうしたらいいのか分からなくなったこと、かいつまんでだけど言ってこなかったことを紬に吐き出した。紬は少し悩んでこう返した

 「泳ぐの嫌いになっちゃったんですか?」

 分からなかった。でも泳ぐのは嫌いではない…そんな気がした。

 何もかも嫌になって、逃げてきて、考えないようにして、そしてようやく誰かに吐き出して、この少年はそこでようやくちゃんと己の気持ちと向き合ったのではないだろうか。そうやって答えを得た。

 羽依里が自問自答を終えて立ち上がると、紬が勢いよくひっくり返って海に飛び込んだ。慌てて紬に駆け寄る。下から聞こえるぱちゃぱちゃという音に遅れて気づく

 

 なんだ入れるじゃん

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ずぶぬれになった紬が言う。「ここまでが作戦ということにしたら賢く見えるのでは」シズクが言う「そうだけど、それを言ったら台無しね」羽依里は「そりゃそうだ」と笑う。

 つられて二人も笑い出した。あれだけ水に入るのを嫌がっていたというのに今ではどこ吹く風だ。

 きっと…三人集まればムテキだった。

 

 また日々は巡る。

 

 どうでもいいことで笑った。どうでもいい日を共に過ごした。そうしていつか好きになっていた。

 思いを伝えた、真っすぐに好きだと

 灯台の上、沈んでいく夕日に照らされた困り顔と照れ顔がコロコロと切り替わる。紬はそんな顔で「この夏が終わったら帰ってしまう」「もう会えない」と言われた。それは元々知っていたことだったから、このタイミングでそういわれるということは「ごめんなさい」ということなのだろうか

 

 そうではなかった。話には続きがあって「それでもいいなら」と言葉が続いた。

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 羽依里が紬を好きでいるように、紬も羽依里のことを好きになってくれていたのだ。

 二人にとって始まりの場所で心が通じ合った。

 この夏が終われば会えなくなるのだとしても、それでも好きだという気持ちを伝えあえたのだ。この瞬間先の未来を予測した私は泣きそうになったが、今は間違いなく幸せなはずだから頑張って笑うことにした。

 

 ここから羽依里と紬は恋人同士となり、蒼や鴎ルートと違ったいちゃつきルートがスタートする。

 思いを素直に言葉にする紬とのいちゃいちゃは見ているだけで砂糖を吐き出してしまうかと思うくらいに甘々だった。不穏な要素も夏休みが終わるとともに会えなくなってしまうということのみ、これに関しては割と初めの方に覚悟できていたからそれほど辛くはなかった。サマポケを始めてから三つ目のルートでようやく何の心配もなく幸せを享受できるストーリーに出会えた。うれちい

 

 らくしょーで好き同士の三人で夏休みが終わるまで毎日笑っていよう。そう誓った。

 

 何度目か忘れてしまう夏休みの朝を迎えた。今日は蔵の整理を手伝うことになったので今日は遊べなさそう、というか元々の名目はそれでこの鳥白島に来ていたのだから当然と言えば当然だ。

 というわけで紬とシズクを引き連れて蔵の整理にやってくる。道で出会った鴎もついてきてくれるようで、ここの住民の暖かさが伝わる。今の時代感じることの少ない人の暖かさとはこういう何気ない時に助け合えることなのではないだろうか、田舎にもいいところは結構あるものだ。

 そうして、なぜ存在しているのか分からぬビリヤード台を片付け、一息つく。座り込み近くにある古ぼけたアルバムを捲っていく

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 出やがったな不穏要素!!!!!!!!

 蔵の中で見つけた紬にそっくりな写真、どう考えても無関係じゃないだろう、勘弁してくれ、上げて落とすなマジで

 

 それから、少しずつ楽しいはずの夏休みが変わっていった。

 

 蔵の整理が終わった次の日も変わらず遊んでいたが、羽依里の頭の中はあの写真のことでいっぱいだったのではないだろうか、正直私がその立場に立っていたらまともな受け答えもできそうにない。

 甘酸っぱい雰囲気にドキドキしていたはずなのにいつの間にか訳の分からない不安でドキドキしている。俺の青春体験を返せ。

 

 胸につかえた不安が取れないまま夏を過ごした。

 

 ふとしたある日、いつもと変わらない朝の時間になっても紬の姿が見えない。不安になる。シズクにポッケに入れたままのあの写真を見られてしまい、お互いが同じ不安を抱えて紬を待つ

 いつもより少し遅めの時間に紬は現れた。寝坊したのだという、ほっとした

 

 次の日また紬だけがいない、少し待ってそれでも来ないので灯台の中に入ることにした。

 いない、昨日は灯台ではなく自分の家に戻ったのだろうか?そう思った矢先、灯台の中から紬が現れた。息をのむ。

 紬に一度灯台の中を探したと言うと、ドッキリをしたくて隠れていたのだという。

 苦しい言い訳、でも羽依里とシズクは信じることにした。いや信じなければ紬が何もないところから現れたり、消えたりすることになってしまうその不安を現実と認めたくなくて、紬のドッキリだという嘘に縋ったのではないだろうか

 

 不安がふつふつと募る。そんな不安を吹き飛ばしたくて、三人で島の外に遊びに行こうと決めた。楽しい予定を立てた後は遊ぶ時間だ。今日も時間の許す限り三人でいた。はぐれたら二度と会えない気がした。

 

 日が過ぎて、楽しみにしていた島の外に行く日が来た。日帰りのつもりなので集合時間はいつもより早めだ。

 待ち合わせ場所の灯台でシズクと紬を待つ、時間が来ても紬が現れない、また寝坊だろうか?

 朝が過ぎて昼になる。紬は来ない、お寝坊さんにはあとで埋め合わせをしてもらおうなんて空元気を振りまいた。

 夕暮れが訪れる。紬は来なかった。

 暗くなる空を見つめていると、灯台に灯りが付く。

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 その中で紬は泣いていた。蹲って大粒の涙を流していた。

 分かっていた。あれだけ朝早くから何度もあっていた紬が昼を過ぎても起きてこないなんて普通じゃないし、紬が羽依里とシズクとの約束を忘れるわけがない。どういう理由なのかは分からないけど、それがどうにもならない理由だということは考えなくてもわかる。

 「いっしょにいこうってやくそくしたのに」

 それが分かるだけに、この言葉を聞いたとき胸が締め付けられるような悲しさを覚えた。辛かった。

 それでも二人は笑った。せっかく三人でいるのに泣いていたらもったいないと、今日がダメならまた予定を立てて別の日に行こう、そしてそれまでの時間は三人で笑って遊ぼう。

 だから…泣くんじゃなくて笑おう、それは紬だけに向けた言葉ではなかったのかもしれない

 

 

 ある日、唐突に紬が消えた。かき氷を口いっぱいに頬張って笑いながら三人で歩いていたはずなのに、紬だけが世界から消えてしまった。

 またドッキリだと言って出てきてくれ、嘘でも構わないから

 

 不安になるような演出の連続で、疲弊していた私は頭を抱えた。

 探して探し回った。だけど結局その日紬が現れることはなかった。

 

 次の日も紬の姿は見えない、いつもの時間に灯台で待っていても出てこない。

 「たたき起こしに行く」という約束があるので待つのではなく探しに行くことにした。どこを探しても見つからないかもしれないという不安はあったが、何もしないでいるよりは動いて嫌な考えを少しでも振り払いたかったのだろう。

 灯台以外となると心当たりは紬の家しかない、でも紬の家を知らない、探し回って、いつの日紬が案内してくれた古びた家にたどり着いた。その中は当然誰も住んでおらず、紬もいない。

 なにか手掛かりをと、日記を見つけた。

 紬の日記だった。書いている日付は今から何年も前だ。嫌な予想ばかり脳裏をよぎる。

 日記にはいろいろ書いてあった。この島に来たが髪の色目の色が原因でなかなか友達が出来なかったこと、渾身のなまはげ挨拶はダダ滑りしたこと、始めて親友と呼べる友達が出来たこと、それからどんどん友達が増えたこと、好きな人ができたこと、駆け落ちしようとしたこと、「紬・ヴェンダース」の人生が綴られていた。

 

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 駆け落ちするためこれから先つけられることのないはずの日記、それに続きがあった。

 ゆっくりと謎が紐解けていく、この先を読み進めれば胸につかえていた何かがとれる、そんな予感があった。

 次のページを捲る手が止められた。

 止めたのはシズクだった。「これ以上見るのは怖い」そう言われた。

 同じ気持ちだった、この先に進むと知りたくない現実を直視してしまいそうで怖くなって、日記を閉じた。

 

 紬はもう灯台にいるかもしれない、入れ違いになったのかもなんて考えながら灯台に戻ったが、結局紬はいなかった。

 待たされるのはもう慣れた、何時間だって待ってやろうじゃないか

 

 そして紬が現れないまま日が沈んだ。

 また一日が終わる。

 紬と思い出を作るための大切な一日が、紬がいないまま過ぎてしまった。

 

 このあたりから終わりを、つまり八月三十一日のことを意識するようになり、ストーリーを捲るのが辛くなった。

 元々終わりが決まっていたのは知っていただろう、覚悟はできていたとも言った。

 でも、実際に終わりを意識すると、紬と二度と会えなくなる日が近づいてきているのを感じると、たまらなく悲しい気持ちになった。

 

 わがままなものだ

 

 シズクが家に戻り、一人残された灯台で紬を待つ。

 日が沈み、夜になっても暗闇の中紬を待ち続けた。

 

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 そしたら、いつの間にか灯台の中にいた。でもいつもと何かが違う。窓から見える外には海が広がっているはずなのに花畑しか見えない。上がればてっぺんにつくはずなのに同じ部屋が続く、下りも同様だ。

 そんな不思議な空間で、羽依里は紬・ヴェンダースに出会った。

 

 顔も声も自分が見てきた紬と同じだったが、何かが違う。長年使っていたゲームのコントローラーを新品に買い替えた時のような違和感があった。

 例えがよく分からないという人は別の何かで想像してくれ。とにかく言いようのない違和感があったんだよ、うん。

 

 とらわれた空間の中で彼女と話した。ここにいる紬はあの日記を書いた本人の紬だった。

 ここで察しの悪い私もさすがに理解できた。

 

 なぜ紬が人形のことを友達と呼んでいたのか、どうして自然と歌ってしまうような鼻歌なのに歌詞を覚えていなかったのか、その理由が分かった。でもそれを口にすることはなかった。

 

 ここにいる紬は、何年も前からここに囚われている紬は、羽依里の探している紬ではなかった。

 それなら、ここにいる意味はないだろう

 帰りたい。紬に会いたい。

 それだけを願い、窓から延びるパリングルスの梯子に足をかけた。その先に会いたい人がいる気がした。

 

 

 

 元の灯台に戻ってきた。窓の外は暗い。完全に夜だった。

 

 そこには涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした紬とシズクがいた。どうやらあの灯台に囚われてから一日が経過していたらしい。

 心配かけてごめんと羽依里は素直に謝った。シズクから「ごめんじゃないわよ!」と怒られた。そりゃそうだ、逆の立場だったら羽依里も泣いて怒るだろう。

 

 一足先に戻っていた紬も泣いていた。それを見ていると何だかこっちまで悲しくなってくる。

 

 ようやく泣き止んだシズクと紬をなだめて、羽依里と紬は心配をかけた人たちに謝りに行った。

 全員が心配をかけるなと怒った。羽依里はこの島の住人ではないのに、夏の間遊びに来ていただけなのにここまで心配してくれるとは思わなかったのかもしれない。

 それだけに羽依里も紬も申し訳なさが凄かったのではないだろうか

 

 田舎あったけぇなぁ。人の温かみほっかほっか亭である。

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 その夜は一緒に泊まった。他の人からたくさん怒られただろうからと、温かく迎えてくれた鏡子さんに感謝し、布団で紬と話した。

 ここにいる紬ではないもう一人の紬に会ってきたことを伝えた。

 

 何かを察して紬が口を開こうとするが、それにかぶせるように言葉を紡いだ。

 「言いたくなければ言わなくていい」「残りの夏を全部上げるって約束は変わりない」「何があっても最後まで一緒にいる」

 

 それ以上は何も言わなかった。心が重いが通じたのが分かったから、これ以上言葉はいらなかったのだろう。

 少なくとも私はそう思った。

 

 自然と近づく顔、月明かりの下で愛が深まった。

 

 それからは流れるように時が過ぎていく、シズクと提案した残りの夏休みで一生分のイベントをやるという考えを実行していく、この夏が終われば紬と会えなくなってしまうのならば、忘れられない一生分の思い出を作ろう。この夏しか一緒にいられないのなら律儀に季節が過ぎるのなんて待ってられない、ハロウィンもクリスマスもお正月も雪合戦もお花見も、思いつく限りの楽しいことを全部やろう。

 

 そうやって最後が訪れるまでの時間を全力で過ごした。もうすぐ訪れる別れから目を背けながら

 

 ここらへんでもうプレイしてる最中は涙がボロボロ出てきて、ストーリーを進めるたびに鼻をかんでいた。最初から眩しいくらいに楽しい日々を過ごしていた。その思い出がある分、別れがあることを意識させられる時間がひたすらに辛かった。

 

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 その先取りクリスマスの最中、八月三十日、最後の日の前日、紬は泣きながら笑った。今この瞬間は間違いなく楽しくて幸せで、笑っていられる時間なのに、もう終わりが近いことを嫌でも意識してしまい、泣いてしまったのだろう。少し前に泣きながら「もっといっぱい遊びたい」と叫んでいた思いがもう一度溢れてしまったのだろう。

 

 最初から終わりがあることは分かっていた、物語が始まるずっとずっと最初から伝えられていた。それを分かっていて、それでも紬と一緒にいたいと、最後の日涙でぐしゃぐしゃになっても頑張って笑って泣いて別れよう。そう約束していたはずなのに、終わりが近くなるにつれてそれを認めたくなくなっていったのだろう。

 

 まるで、親に時間を決められていたゲームで遊べる時間を、終わりが近くなってから「もうすこしやりたい」なんて子供がわがままを言うように。

 

 画用紙とクレヨンを渡されて、何を描きたいのかが中々決まらず、いざ「もっと遊びたい」「こんな思い出を描いていきたい」そう思ったときはもう遅い、お絵描きの時間の終わりは近づいて、急いで描きたいものを描き始めても、描ききれない。

 もっと色んなことを描きたかった画用紙は、クレヨンは取り上げられてしまうんだ。

 「もっと」なんて想いを胸に残して

 

  夏の思い出を書き綴ることのできるノートの、終わりが近づいてきていた。

 

 

 

 最後の日が訪れる。今日はシズクはおらず、紬と羽依里の二人きりだった。

 なんてことない日々を過ごした。もっとやりたいこととかが普通はあるのかもしれないが、最後の日はこうして心を通わせてゆっくりとした時間を過ごしたかったのかもしれないし、やりたいことが残りすぎてて何に手を付けたらいいのか最後の最後で分からなくなったのかもしれない。それは羽依里にしか分からないことだ。

 

 

 

 夜になる。最後のイベントだ。

 何度も開けて閉めて、入って出た。思い出の灯台の扉を開けた。

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 そこには沢山のろうそくが立っていた。これから先の紬に訪れるはずの誕生日、その一生分の誕生日を祝うろうそくが置いてあった。

 

 紬のためだけに用意されたその道を歩く、紬を祝うためのろうそくなのに、私には紬を見送るためのものにしか見えなかった。ここに来るまでに出し切ったと思っていた涙が、残りかすのようにぽたりと落ちた。

 

 BGMが切り替わり、紬の歌っていた鼻歌に歌詞が付いたものが流れる。猫と鳥と牛の仲良し3匹の歌だ。この歌が何を歌っているのかなんて聞いただけで分かる。また一つ涙がこぼれた。

 

 手をつないでゆっくりと歩く中、紬が話始める。

 それは彼女の話だった。

 どうして自分探しをしていたのか、そもそも「じぶん」とはなんだったのか、どうして「やりたいこと」を探していたのか、予想できていた謎の一つ一つを答え合わせしていくように言葉が続いた。

 聞いている答えは予想していた通りで、「やっぱりそうだったか」と納得した。

 でも心のどこかで予想と違ったダダ甘な答えを期待していた自分もいたから、納得したけれども納得できなかった。

 

 紬の話が終わり、またどうでもいい話に戻る。なんてことない小さな受け答え、そうしている時間が何より幸せだった。

 

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 そんな中紬から一つの言葉が発された。

 

 「明日もきっと、楽しいですよ」

 

 この一言にどれだけの思いが詰まっていたのだろう、明日からはもう一緒にはいられないけど、私は帰ってしまうけれど、それでも羽依里には、シズクには、まだまだ楽しいことがたくさん待っていると伝えたかったのだろうか、明日からも楽しいことはあるから泣かないでほしいと、そんな思いがあったのではないだろうか

 

 この一言が目に飛び込んできた瞬間に、出し切ったと思っていた涙はダムが決壊するがごとく溢れ出した。

 

 視界がぼやける中でストーリーを進めた。

 

 このサマポケの主題歌、アルカテイルの歌詞の一部である

 

 「やがて訪れる日にはせめて笑顔のままで手を振りたくて」

 

 きっとこの瞬間のことを指していたのではないだろうか、訪れると分かっていた日、きっと涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていたとしても最後まで笑っていよう。

そう約束していたはずなのに笑えない、笑えるわけがなかった。

 

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 そうして、紬との夏休みは終わりを迎えた。沢山やり残したことを置いていったまま、プレゼントした思い出のリボンを残して

 

 

 

 次の日、九月一日を迎えた。もう紬はいない、三人から一人欠けて、二人になった羽依里とシズクは始業式をサボり、港に立っていた。

 シズクはいう「紬は夏休みだった」と羽依里も同意した。

 だからと言葉が続く、夏休みは今年も来年も再来年もその次もきっとある。だから紬が夏休みだというのならきっとまた会える。そう言った。

 

 羽依里は船に乗り、この夏を過ごした、紬と出会ったこの島と一時の別れを告げた。船の中であの鼻歌が聴こえる。どうやら紬が歌っていたのを覚えていた人が沢山いたらしい。

 きっと多くの思い出を残していった彼女は、シズクの言う通り夏休みだったのだろう。だから来年の夏も会いに来る。きっとそこに紬がいるような気がするから

 

 そうしてエンディングが流れる。このタイミングが思い出に浸る時間であり、今回は一生止まらない涙と鼻水を拭う時間でもあった。

 

 今回の紬ルートのストーリーは毎日友達と遊ぶような騒がしい夏休み、というのが一番近いだろうか。初めのころは無限にあるように思えた夏休みでも、それにはしっかり終わりがあって、終わってほしくない、終わらせたくないそんな気持ちが終わりが近づいてくると生まれてくる。そんな子供のころの気持ちをもう一度味わせてもらった気がする。

 

 来年私は社会人となるが、その中の限りある夏の休み期間を精一杯楽しみたいと思わされた。

 ありがとうサマポケ

 

 

 さて、そうしているとエンディングは終わり、Cパートとなる。羽依里は一年経った夏、またこの鳥白島に訪れた。

 もちろん向かうは灯台、思い出の場所だ。

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  そこに紬はいた。やっぱり紬は夏休みだったのだ。

 彼女からの「おかえりなさい」に羽依里も「おかえり」と返したのではないだろうか

 

 そのあとは描かれていない。でもきっとその先は幸せに満ちているのだろう。

 

 今日も灯台から愉快な鼻歌が聴こえる。

 猫と鳥と牛、集まればムテキの三匹の歌が

 

 

サマポケ感動をありがとう!!!!!!!!!!

 

続いて鴎ルートをクリアした感想

(初めに、このブログは結構なネタバレを含むためプレイしてからの閲覧をお勧めする)

 

蒼ルートをクリアした後、ずっぷりと感傷に浸り、ひたすら「あぁ、よかったなぁ」なんて感情を吐き出し続け、感情のボルテージが収まってきたところで次に気になっていたヒロインである「久島 鴎」のルートを目指すことにした。しろはは友人から最後のほうがいいと言われていたので、蒼ルートをクリアした私は必然的に鴎か紬のどちらか二択のルートを目指すことになる。そんな二択で私が選んだのはスーツケースに乗ってそれを後ろから押すという強烈な初登場をした鴎であった。しかし初登場が強烈であったからというだけで鴎を選んだわけではなく、もう一つ大きな理由がある。

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 その理由を語る前に、皆さんはこういったサマポケのようなヒロインが複数いて選択肢によってルートが変わるギャルゲあるいはエロゲをしたことがあるだろうか?私はそこまで数多くではないが嗜む程度にはやってきた。

 やったことがない人はすまないが少し私の自分語りに付き合っていただきたい、やったことがある、やっているという人は私の話に共感できるかもしれない。

 さて、話を戻すとなぜ私が鴎ルートに行くことを決意したのかということだ。その理由は鴎というヒロインのスーツケースに乗って一緒に海に落ちたシーン等、最初から親しみやすい描写が多く私はその中に前にルートを終えた蒼との共通点を見たのだ。

 そう、実は私は最初にルートを終えたヒロインにクソデカ感情を抱いてしまい、別のヒロインに進もうとするのをためらったり、次にルート開拓を行おうとしているヒロインに対して一番目のヒロインの面影を探したりすることがあるのだ。

 今回プレイしているサマポケの蒼に至っては、俺が蒼ルートを進まなければ姉妹そろって幸せになれる未来は限りなく遠くなるし、蒼の無茶が続く世界線となる。そういう考えもあって、正直もう一度蒼ルートに入ろうかだいぶ悩んだ。

 しかし新しいストーリーが読みたいのは紛れもない事実、ちらちらと蒼との思い出がちらつく中、私は心を鬼にして鴎ルートの突入を決めた。

 

 そうしてスタートを切った鴎ルート、どうやら私の感じた通り前半のパートは蒼の前半パートのような、思わず笑みを浮かべてしまうストーリーだった。

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 旗を掲げた彼女は10年前の約束を果たすと、この島に隠された鍵を探し、宝箱を開け、島の秘密を見つけると息巻いていた。

 宝探し、子供のころの夏休みのころはそういったものに憧れていた。でもいつかは自分が住んでいる場所、動ける範囲、金銭のことも考えるようになり次第に憧れは憧れでしかないことを理解していった。そうして大人になってきた私にゲームの中だけでも憧れていた体験をさせていただいたサマポケに感謝したい。

 

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 鴎に連れられて、宝のカギのありかを記したメモ帳を見つけた私たち、4つのカギはそれぞれ「おおわしがすむてんくうのしろに」「かいじんがしゅごするかいていに」「ばんけんがねむるめいふのいりぐちに」「ばじりすくがひしめくさばくに」隠されていることが分かった。このカギのありかを記した暗号をみると謎解きをしているようでとてもワクワクして、なんだか羽依里がなんだかんだ宝の中身が気になる気持ちも理解できた。

 ここからようやく羽依里への感情移入がスムーズにできるようになり、画面の向こうでプレイしている私ではなく、もう一人の「鷹原 羽依里」として物語が進められるようになった。

 鍵のありかはちょっとトンチをきかせたものから、子供らしい考えの隠し場所と様々で、頭を利かせて立ちまわったり、時には怪我をしてしまうような無茶もしたが、無事4つのカギを見つけることができた。隠し場所を捻ったとしても10年前に隠したモノが残っているというのは中々凄いなとこの時は感心したものだ。

 

 そして、ようやくカギを全て見つけ宝箱を開ける。その中身は島の秘密…ではなくその秘密が隠された地図だった。

 ここにきて焦らすか~と思いつつもまだまだ冒険が続くのかと思うとそれでもいい気がした。まだ夏休みは始まったばかりで冒険に出る時間はいくらでもあるのだから

 そう思ったのもつかの間、なんと鴎から島の秘密についてあっさり教えてもらえたのだ。鴎が言うには、どうやらこの島には海賊船が眠っているらしい。

 正直あまり信じれなかった。海賊船なんてものがあるのならニュースになっているだろうし、良一なんかから「実は昔この島には海賊船があってだな~」なんて得意げな顔で説明されていたかもしれない。

 しかし、鴎が嘘をついているとも考えにくいので正直半信半疑といったところだった。

 それを確かめるべくカギを集めている最中にケガした私の腕が治ってから地図のバッテン印まで行こう。そう手を差し伸べられた。ワクワクが止まらないまま治るまでの時間を過ごした。

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 その回復期間は、腕が不自由な私を気遣ってか家周りのことを手伝ってくれることとなった。鴎はなぜか鏡子さんが貸し出したメイド服を着ているのだが、まあ可愛いから細かいことはどうでもいいだろう。ナイス黒髪メイド!グッジョブ鏡子さん!

 

 そんな日々を過ごしている間に、風呂場でちょっとしたアクシデントがあったりもしたのだがそれもいい思い出だ。

 

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 出発前日、私は鴎と300円までのおやつを買いに来ていた。こういう細かいシーンや演出によってまるで本当に子供のころに戻り冒険をしに行くんだという気持ちになった。

 右手にたった三枚の小銭を握りしめ、なるべく商品の値段が安くなるようコンビニは避け、スーパーや駄菓子屋でカラフルなお菓子を眺めていたことが今のことのように思い出せる。「これは値段の割に量も多くてそこそこ美味い」だとか「こいつ量は少ないしチョイ高めだけどめっちゃ美味しいんだよなぁ」なんてお菓子コーナーで一人で唸っていたんだ。

 一緒に買いに来ていた友達はもう選び終わっていたり、まだ自分と同じく思考中だったり、「やっぱりこっちにしようかな」って籠に入れたお菓子を取り替えたりしていたんだ。

 そうやって満足いくまで悩み続けて選んだお菓子をビニール袋に入れてもらって、大事に抱えて家まで帰るんだ。そして今食べてしまいたい誘惑を振り切って眠りにつく、「はやくあしたにならないかなぁ」なんて呟いて

 本当に子供のころに戻ったような気がした。鴎といる時間は大変で苦労したけど、それ以上に楽しくて、明日が今日よりももっとワクワクするような出来事が待っているような気がして、代わり映えのない毎日を過ごしていた自分にとって、今過ごしている夏休みの一秒一瞬が何よりも代えがたい宝物になっていった。

 

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 夜になる。

 冒険の下調べも準備も終わらせた出発前夜、布団の中で眠気と闘いながら何気ない話を続ける。航海に旅立つ海賊が、冒険に旅立つ探検家が仲間との絆を確かめるように。

 遠足に行く前が一番楽しかった気がするなぁってクスリと笑いながら眠りについた。「明日が晴れますように」なんて祈りながら

 

 

 

 晴れた。蝉がやかましいほど自己主張をする炎天下の中、鴎と一緒に出発した。秘密の通路を抜け彼女にとっての思い出の道を踏みしめていく。

 

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 手はつながない距離、でも確かに横にいて、この先にあるはずの冒険を共有できる距離にいた。少し足が遅い鴎に合わせるように少し速度を落として歩く、鴎もそれを知っていると言わんばかりに歩くスピードは一定だ。

 カギを見つける大冒険で、冒険していない時で、楽しい時も苦労した時も一緒だった二人は今、確かな絆で結ばれていたように思う。

 「暑いな」「暑いねぇ~」なんてしてもいないような会話が自然と聞こえてくる。本日も私の妄想力は絶好調だ。

 

 そうして地図とにらめっこを繰り返し、線路に沿って歩き続けるループから脱却し、新しい道を見つけた。そこから先へ先へと進んでいく。

 この時、羽依里はなにか既視感のようなものを覚えた。「俺はここに来たことがある?」

 割と最初の方から言い続けてはいたこの違和感だが、もしかしたら羽依里が昔に来たことを忘れているのかもしれないし、もしくは夢の中できたとか、何かの話で聞かされていただけかもしれない。ちょっと引っかかっていた謎が少しずつ核心に迫ってきているような気がして、私は足早にストーリーを進めた。

 

 お目当ての洞窟を見つけたときはもう夜で、予想的中といったところかテントを張って野宿をすることになった。

 その夜、羽依里は知らないはずの記憶を見た。子供のころの鴎がみんなを引き連れてここに来たこと、そこでこうしてテントをはったこと、知らないはずなのにまるで体験してきたことかのように細かいエピソードまで覚えているのだ。

 ここでの私の考えは羽依里はやっぱり昔ここに来たことがあって、でも何らかの理由でそれを忘れているのではないか?という線が有力だった。

 そんな疑問を抱えたまま、お約束ともいえるラッキースケベを潜り抜け洞窟へと足を踏み入れる。ラッキースケベを拝みたいそこのあなたは自分で見に行ってくれ、なんなら今ここでこのブログを閉じてプレイしに行っていただきたい。

 

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 洞窟を進み、ちょっとした苦難を乗り越えて、ようやく印の場所まで辿り着く。その前にいつも元気にふるまっていた鴎から出てきたのは、そんな不安の感情だった。

 何も言えなかった。私はそこにいた当事者じゃないから、きっと覚えているなんて言葉では気休めにもならないだろう。

 しかし羽依里からでた「こんな冒険早々できるものじゃない」「俺だったら絶対忘れない」そんな言葉に鴎は救われたのではないかと思う。そう願いたい

 

 迷いはなくなり最後の一歩を踏み出す。子供のころに見た島の秘密、宝物がある光の向こうに。

 

 

 鴎が言っていた通りの入り江にでて、そこには確かに船があった。でも海賊船ではない、ただの古ぼけた船だった。子供のころの記憶なんてそんなもので当時はもっと大きく見えて海賊船のように見えたのだろう。今私が見た船は海賊船ではなかったが、きっと子供のころに見たのは間違いなく海賊船だったはずだ。

 長かったようで短かった冒険の終着点にたどり着き、「海賊船はなかったけど、冒険は本物だった」「とっておきの冒険だったよ」なんて笑いながら帰ろうと思った。

 でも、それは叶わなかった。船を見た鴎は震え、涙を流していた。

 そして鴎から「すべて思い出した」「スーツケースに本当の私がいる」という言葉の後に紡がれた「バイバイ」その言葉を聞いた時にはもう鴎はいなかった。消えてしまったのだ、夏の陽炎のように

 

 訳が分からなかった。夢だったとでもいうのだろうか、鴎が乗ったスーツケースを押したときの重たさも、逆に押してもらっていた時のバランスのとりづらさも、彼女にひかれてとっておきの冒険が始まったあの時も、木から落ちて助けてもらったあの感触も、何もかも全部全部、幻だったのだろうか。

 悪い思考を振り払うようにがむしゃらに鴎を探し続けた。ストーリーを一枚一枚進めていくたびにクリックする指が重くなっていった。

 そして結局鴎は夜になっても見つかることはなかった。

 

 羽依里は結局島の人に連れられて島へと戻った。

 

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 帰ってきてから、分からないことだらけのピースを埋めていく作業に取り掛かった。まずはスーツケースを見つけて本当の鴎に会うこと、悩むのはそれからでも遅くはないだろう。

 島でできた友人たちに協力を仰ぎ、鴎のスーツケースを見つけた。私も羽依里の想像のように鴎がマジックショーのごとくこのケースから出てきてくれればとどれほど思っただろうか、そんなことをしてはシナリオとしては台無しになるだろうがそれでもよかった。それほどまでにこの時の私は救いを求めていた。

 

 スーツケースを持ち帰り、家のなかで中身とご対面、緊張していた割に中身はあっけなく服とか下着、小物の類しか出てこなかった。でもそんな中で一つの本が目に留まった。題名は「ひげ猫団の冒険」もしやと思った。

 そんな馬鹿なと思いつつもストーリーを進めていけば見る見るうちに疑問や、胸の奥で引っかかっていた何かが取れていく、どうして来たこともないこの島に既視感があったのか、なぜ鴎の足が悪いことを知っていたのか、パズルのピースが一つ埋まればそこから繋がっていくように見る見るうちにパズルが完成していく。

 物語は核心に近づいていた。

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 残りの数少ないピースを埋めるため、鴎が言っていた「島の外れにある家がそのままだからそこを借りている」という言葉からその家にたどり着く。

 そうしてそこで鴎の母親に出会った。

 スーツケースを届けたお礼とでもいうのだろうか、彼女は鴎のことを教えてくれた。

 足が悪いこと、ほとんどをベッドの上で寝て暮らしてきたこと、今は外国の病院にいること、鴎の提案でこの物語を再現しようとしていたこと…etc

 こうして数多くあった伏線が回収され、全ての納得がいった。

 

 ここからは、羽依里の意地が始まる。鴎が皆を招待したがっていたとっておきの冒険を最後まで完成させることだ。カギも隠し場所も地図も洞窟も入り江もある。残りは海賊船だけだ。ならあの船を海賊船に仕立て上げればいい、鴎がそうしていたように

 やることは決まった。なら後は進むだけだ。そうやって誰かの夢の手助けを頑張れるこの鷹原 羽依里という男の子は間違いなく主人公なのだろう。羽依里の言葉で仲間が集まり、協力者が増え、鴎の夢が形どり色づいてくる。

 完成が見えてきていた。

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 一人残って作業をしていて迎えた、この夏何度目になるかわからない夜に、再び鴎と出会った。

 「や」

 そうやって片手を上げてなんでもない挨拶を交わすその姿に救われた。また会えたと

 それから会えなかった時間を埋めるように二人きりの時間を過ごした。

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 夜の海、船の上でそっと口づけを交わした。本当の体を持つ鴎は外国にいてここにはいないのだとしても、確かに心はここにいる。普通の恋人同士のようなキスはできなくとも、心と心で愛を確かめられた二人はこの瞬間間違いなく世界で一番幸せな二人だったのではないだろうか

 どちらから惹かれたとか、いつから好きになっていたのかは分からない。最初から惹かれあっていたのかもしれないしそうではないのかもしれない、でもそんなことはどうでもいい、今この時二人の中に愛があるという事実だけで私は救われた。

 

 永遠のように思えた時間は終わり、鴎が再び消えようとしている。

 「私は本当はここにいちゃいけない」「遠くに行くんだ」

 察しの悪い私でも鴎が何を言っているのかは理解できた。

 息が詰まる。こんな時もっと頭が悪ければ鴎の言葉をうまく理解できずに、笑っていられたのだろうか?今だけはIQが1にまで下がってしまえばいいのにとさえ思った。

 船から鴎の姿が消える。残されたスーツケースのカラカラという音がやけに響くようで酷い虚無感と喪失感に襲われた。「夢が叶ったんだよ」じゃないだろう。夢を叶えたらその次の夢を、それが終わったらまた新しい夢を探しに行こう。人間それくらいわがままに生きたって誰も文句言わないだろ! 届かないはずの画面の向こうに思わず叫んでしまうほどに感情が膨れ上がっていた。

 

 あまりにも辛かった。蒼の時と同じ、いやそれ以上かもしれない。こんなに悲しいのなら、こんなにも苦しいのならば「愛などいらぬ!」世紀末皇帝のような心からの叫びが漏れ出る。

 笑えて楽しかった前半パートを越えてのこれなのだ、キーボードにいくつかの雫が落ちても仕方のないことだろう。家の中だというのに雨が降ってきたのだろうか

 

 物語を進める。

 

 羽依里は海賊船を作り上げることをやめるか悩んでいた。元々鴎の夢を完成させるためにやってきていたのだ。そんな鴎から直接もう夢は叶ったなんて言われたらどうしたらいいのか分からないだろう。

 羽依里は鴎のために海賊船を作っていた。なら鴎は?誰のために頑張っていた?思い返す。

 「皆のために」

 そうだ、鴎はひげ猫団の冒険を読んでくれた、手紙を送ってくれた皆をとっておきの大冒険に招待するために頑張っていたのだ。それを思い出せた今、羽依里が迷うことはなかった。

 たくさんの手紙を書いた。読んでくれるか分からない、来てくれるか分からないが鴎のために実るか分からない努力をしている男の子が眩しく見えた。

 手紙を出し、シンボルになる旗を描いてもらって、島外から来てくれた名前も顔も知らない同志たちと旗を抱えながら走った。

 

 

 入り江には沢山の人たちがいた。子供のころ憧れた冒険を体験したくて、宝物になっていた記憶を思い出したくて。そんな人たちが集まっていた。

 

 さぁ、完成だ。羽依里は海賊船らしくでっかい旗を括り付けるためマストに上る

 

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 そこに鴎はいた。ひげ猫団のリーダーらしく堂々と座って。

 私はこの時泣きながら笑った。鴎の夢にこんだけ人が集まったんだ、そうやって夢が叶う瞬間を見られたんだって思うと嬉しくて泣かずにはいられなかった。

 

 彼女は言う「旅に出る」と、私は「そうか」と返したような気がするし「行こうか、キャプテン」そうも言ったような気がする。羽依里が何と言ったかは分からないけど私と同じだったら嬉しい。

 快晴、絶好の航海日和だ。海風ではためく旗の真ん前で彼女は叫んだ

 「ひげ猫団、しゅっぱーつ!」

 その顔は思いっきり笑っていた。

 

 エンディングが流れている間、今回のストーリーを思い返していた。思うことはただ一つ「楽しかった」

 楽しかったのだ。子供のころの夏休み神社の裏側だとか、行ったことのない森の奥などに探検に出かけて、そこに大きな宝物があると疑わずにいたあの頃に戻れたような気がして。途中の不穏パートはドキドキしたし、物語の後半は切なくて苦しくて悲しくて、泣きっぱなしだったがそれでも楽しかったといえるだろう。鴎、この夏に出会ってくれて本当にありがとう。心からの感謝を送りたい。

 

 

 

 

 そうしてエンディングが終わり、羽依里はもう一度鳥白島を訪れた。

 一年前と変わらない姿を残し続ける海賊船、その中に一通の手紙が置かれていた。

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 この瞬間、もう泣くまいと思っていた私の心は完全に崩された。この言葉の後にはこう続くのだ「愛をこめて」「久島 鴎」と

 私の顔がゆがむ、固く結んでいた口元は開きキーボードに突っ伏して声にならない声を上げながら泣いた。「いかん、雨がふってきたな」なんて言い訳が使えないくらいには

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 そうして七つの海を越えるいつかの未来に二人は出会うのだろう。また新しいとっておきの冒険を用意して

 

 

 サマポケ感動をありがとう!!!!!!!!!!

 

  

 

とりあえず蒼ルートをクリアして

 四連休も始まるのでと、せっかくなので前から気になっていたサマポケをこの機にプレイしてみることにした。

 物語はなんと夏休みに鳥白島を訪れた高校二年生である「鷹原 羽依里」を主人公と据えたもので、ちょっといろいろあって寝込んでいたり、卒論の進捗がダメダメであった自分にはプロローグが始まったあたりで眩しさで目がつぶれるかと思った。

 

 そんな気持ちでプロローグを終え、その中で一番気に入ったヒロインが「空門 蒼」だった。

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 初めの出会いは彼女が道端の気の木陰で寝ているところを目撃したのが最初だった。このシーンを見てまず思ったことは、女の子が外でこんなに熟睡していて大丈夫なのか?普通外で年頃の女の子が寝ているのはヤバいのでは?と思ったがここは私の住んでいるところではなく、鳥白島という自然あふれる島なのだと気づかされた。ここで私の意識は現実からこの鳥白島までやってきたのだと思う。つまり彼女が私をこの世界に連れてきてくれたのだと思った。それがこの空門 蒼という少女を気に入った理由だろう。あと胸がデカい。

 

 最悪な初対面であったが、気さくな彼女は歓迎会まで開いてくれ、必然的に遊ぶことも多くなった。というか蒼は割とムッツリだったり、ノリがよかったりと親しみやすい部分が多く、彼女とのストーリーを見ているときの私は結構笑い声が多かった。

 

そんな中のこれである

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 ラッキースケベ、それはギャルゲではおなじみのモノだろう。しかし蒼とは気の合う友人のようなストーリーが多かったため、このように急に女性であると強烈に意識させられるとは思わず驚いた。なんならディスプレイの前で「うおお!」みたいな声も出た。

 まあその後に起きたかき氷合戦によって爆笑に上書きされたのだが…、かき氷合戦が気になるのなら一度ぜひプレイしてみてほしい。笑うから

 

 そうやって過ごしていると、自然と蒼に会えるであろう駄菓子屋に足を運ぶことも多くなり、宝探しごっこをしているような少年三人組もよく見るようになった。私も子供のころはそうやって外に楽しい何かを求めて遊んでいたような気がする。子供のころ置いてきてしまった何かを取りに戻れたようで元気が湧いた。

 話を戻そう、そうやって夏休みらしい夏休みを過ごしていると、眠れぬ夜に別人のような蒼に会った。

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 正直、蒼ではなく双子のお姉ちゃんか何かだと最初は思った。胸がデカくて、ムッツリスケベで、気さくで、いつもどこかで寝こけてて、バカみたいなことを一緒にして笑っていた蒼とは雰囲気がまるで違っていたから、だけど次の日誤魔化すのが下手な蒼のおかげで、夜の山で見た蒼っぽい人は蒼であったことが分かった。ポンな蒼もかわいいね。

 そうして始まった蒼ルート、話を進めていくとどうやら昏睡状態であるお姉さんを起こすためにお姉さんの記憶を持った「七影蝶」を探しているのだという。「七影蝶」というのは未練の残った魂の記憶、その残滓らしく触れると記憶に飲み込まれることもあるのだという、詳しくはプレイしてみてほしい。

 イメージとしてはガンダムUCのバナージのように人の死を感じ取れたりするものだろうと考えている。言うなれば「今、俺の体を誰かがすり抜けていった」といったところだろう。

 んで、危ないからとかの理由で最初は断れ続けていた蝶探しだが、折れたのは蒼で手伝えることになった。そりゃ好きな女の子の力にはなりたいよな僕もそう思いますけど。

 

 しかし探せど探せど蒼のお姉さんである藍の蝶は見つからず、時間だけが過ぎていった。

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 病室で眠り続けている姉である藍に語り掛ける姿と「双子なんだから分け合えるものは共有したい」という言葉に強く胸を打たれた、なんなら泣いた。

 たとえ相手が肉親であろうとここまで真っすぐな献身をすることができる人間が世界にどれだけいるだろうか、私はこの時画面の向こうの藍が目覚めるエンディングであることを祈るしかなかった。

 

 

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 また蝶探しを続ける。未練なんて人の数だけあるのだ、そんなものが集まってくるこの島で、たった一匹の蝶を見つけることなんてできるのか?

 不安が襲い、蒼に問いかけた「どうしてそんなに頑張れるんだ」と、すると彼女の話を聞かされた。仲良しの姉妹に起きた悲劇を、その経緯を

 そして蒼は「謝りたい」「酷いこと言ってごめんと言いたい」そう言った。世界でたった一人の姉と仲直りがしたいのだと、背中から伝わる彼女の震えを分からないふりをした。

 夏なのに凍えてしまいそうだった。いや現実はもう秋なんですけどもそういうことではないんです。

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 全てを知らされ。よりいっそう愛が強まった。蒼が愛おしいと思った。

 星が降る夜、二つの影が重なった。

 

 普段の蒼とは違ったしおらしい姿の蒼に思わずドキドキして、なるほどなぁ、ヒロインはこうやって可愛く見せていくのかと素直に感心した。ギャップ萌えについて一つ理解が深まったかもしれない。

 

 二人が一つになった夜を越えて、蝶探しは再スタートを切った。

 そんな中、全身の血の気が引くようなハプニングが起こる。眠っていた藍の心臓が止まったのだ。しばらくしてなんとか持ち直しはしたものの一度心臓が止まったのだ、次がないとは言い切れない。

 空気が重くいつも騒がしいはずの天善や良一もまるで口が開かない、生きてさえいればいつかは目が覚めて会えると思っていたのだろう、しかし今日死ぬかもしれないという可能性を目の当たりにして全員が言葉に詰まっていた。

 

 最後まで残っていた羽依里だが、蒼の母親から蒼がとっくに帰っていることを聞かされ、その瞬間飛び出した。蒼の行き先は家ではないことはわかっているし、当然今自分が駆けて向かっている場所も同じだ。

 

 蒼は間に合わないかもしれない恐怖から、無茶な蝶探しをしていた一日のキャパがだいたい5であったのに今日は深夜になっていないにも関わず10近い蝶が灯篭の中にいた。脳のキャパがパンクしそうな蒼は一時の眠りにつき、そんな蒼を守っているような蝶に出くわした。

 弱弱しい光を放つ蝶に恐れなく手を伸ばした。「やっと見つかった」その気持ちでいっぱいだった。

 

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 朝を迎えた。

 目線の先で笑いあう姉妹が見える。目に涙を貯めていて、それでも幸せそうに笑う二人に涙が止まらなかった。自分は百合愛好家であるから「あら^~」なんて言葉が出るかと思いきや、そんな言葉を発する気にすらならないくらいにこの瞬間は尊いものに感じた。

 この夏での蒼しか知らないが、一年前もまたその一年前も、そのまたもっと昔も姉に起きてほしい、謝りたい一心で努力し続けていたのだと思う。それを想像するとまた泣きそうになるのだが、泣き続けているとルートが終わらないのでストーリーを進めることにする。

 物語もクライマックスを越えたのか柔らかな雰囲気が流れ始める。ちょっと前重苦しかった野郎どもの騒ぎ声を聞いて、ハッピーエンドに向かうだけかな?なんて考えていたが、蒼の声が聞こえない。

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 どうやら蝶に触れすぎて疲れて眠っているらしい。記憶の整理ができれば起きるらしいし、蒼は慣れているとも言っていた、大丈夫だろう。

 そう思って蒼が起きるまでのストーリーを進めていった。一日進んだ、まだ起きない二日目進んだ、起きない。

 不安になるが待ち続ける。そうして長めの眠りから覚めた蒼を見て良かったとホッとしたのもつかの間、「いつまで起きていられるかわからない」「だから望みをかなえてあげて」蒼の姉である藍はそういうのだその言葉を蒼も否定しないのだ。

 絶望した。ようやく姉と出会えてここからたくさん思い出作って10年間分の思い出を埋めていくのではなかったのか、これでは入れ替わり、時間の椅子取りゲームのようなものじゃないか。誰かが席を譲らなければ起きられないのか、そう感じた。

 選択肢を間違えたのかと正直思ったが、ストーリーをこのまま進めていくことにした。

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 蒼を背に乗せ、村の中を歩き回る。この絵だけ見れば間違いなくハッピーエンドのように見えるが、この幸せは蒼がもう一度眠りにつくまでしかないものだと知っている。もうすぐ終わりを迎えるものだと知っているから涙が止まらなかった。

 いつも騒がしかったはずの蒼が大人しいこと、時間がすすむにつれて口数が少なくなっていくこと、そしてなにより恥ずかしがり屋の蒼が素直に甘えてくることが、最後だから素直になろうとしているようにしか見えなくてひたすら辛かった。

 時間の椅子を譲れるならば譲ってしまいたくなるほどに。

 

 蒼といろんなところに行った、かき氷合戦をした駄菓子屋、蒼が考えすぎてから回った神社、最初に出会った田舎道。この夏出会った場所を巡り出会えて良かったと思うとともに出会わなければよかったのかとも思ってしまう。

 別れの時はゆっくりと近づいていた。

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 夜になり、蒼の希望で後回しにしていた御神木までやってくる。背に乗っている蒼はすうすうと寝息を立てていた。

 星が煌めいている夜空のはずなのに、今は蒼を連れて行こうとしている闇にしか見えない。

 背にいる蒼に声をかけても、ゆすってみても返事は返ってこない。正直もう見ていられなかった。救いはないのか

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 そうこうしていると蒼の体から無数の「七影蝶」が飛び立った。まるで命が抜けていくみたいに。

 これだけの記憶に飲まれ続けていたのかと、今まで蒼がどれだけ頑張ってきたのかが分かる。それだけにこれはあんまりだと思った。姉と再び笑うために頑張ってきたのではないのか、恐怖を飲み込んでいつか幸せな未来があると信じて頑張っていたはずじゃないのか、散らばっていく光を泣きながら追いかけた。

 そして一つの蝶に指先がかすかに触れた。

 蒼の記憶だった。初めて会った時の記憶から今に至るまでの記憶、どうやって羽依里のことを好きになっていったのか、どうやって惹かれたのかが理解できた。

 こういったゲームではヒロイン側の描写があったりするのは普通だが、この蝶を通して主人公に記憶が流れ込むような描写の中で蒼の気持ちが、本音がしっかり分かっていくというのは新鮮だった。

 そして聞こえた「好き、大好き。」というこの単純で純粋な愛の言葉に、気持ちに限界を迎え21歳学生である私は自室で声を上げながら泣いた。

 この記憶に確かに羽依里は少しながら救われたのではないだろうか。

 夜空に消えた蒼の記憶、見送った後、抜け殻になった蒼の体を背負いゆっくりと山を下っていきエンディングを迎えた。

 

 

 

 

 それから一年?もしくは二年?いやもっと経っているかもしれない。どれだけの時間が過ぎたのかは分からないが、きっと記憶を見つけたのだろう。姉を起こすことを諦めることのなかった蒼のように必死に努力して

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 そうして迎えに行った蒼にこう言ったのではないのだろうか、「おそようさん」と

 その後の二人がどうなったのかは分からないけど幸せであることは間違いないだろう。そう願っている。

 

 サマポケ感動をありがとう